データセンターとクラウドサービスのどちらを選べばよいか?実際の事例で解説 第02回 23年08月 / 最終更新:2024.02.13

企業が自社のシステムを構築する際によく直面するのが、「データセンターとクラウドサービスのどちらを選べばよいか?」という悩みです。社内のスペースを有効活用できることや、サーバの保守運用を外部に委託できることなど、どちらも同じようなメリットがあり、違いがわかりにくいと感じる方もいるのではないでしょうか。

この記事ではデータセンターとクラウドサービスのそれぞれのメリットや注意点の他、実際に双方を比較検討した事例をご紹介します。

企業のシステム担当やITベンダの営業担当など、サーバ構築について検討される方はぜひ参考にしてください。

クラウドサービスのメリット

まずはクラウドサービスのメリットを3点紹介します。1つずつ見ていきましょう。

・無駄なコストの削減
・スケーラビリティ
・アクセシビリティ

無駄なコストの削減

クラウドサービスは基本的に利用した分だけ料金を支払うため、サーバにかかる費用を大幅に削減できます。また、物理的なサーバの運用や保守に必要なコストも不要です。夜中に利用しない場合は、利用時間を半日に抑えることでも費用の削減が可能です。

スケーラビリティ

クラウドサービスは、需要に応じてリソースをリアルタイムに増減させることができます。これにより、ビジネスの急激な成長や縮小など、需要に合わせて、迅速に対応することが可能です。

アクセシビリティ

クラウドサービスはインターネットに接続できればどこからでもアクセスが可能です。リモートワークの需要が高まる現在、その利便性は大きな強みと言えます。

クラウドサービスの注意点

クラウドサービスにはメリットが多いものの、同時に考慮すべきいくつかの注意点もあります。主な注意点は以下3点です。

・セキュリティ対策
・カスタマイズに制限がある
・ベンダ依存のリスク

セキュリティ対策

クラウドサービスはデータを外部のサーバに保存するため、セキュリティ対策が極めて重要です。サービスプロバイダのセキュリティポリシーや運用を理解し、自社のセキュリティ要件を満たすか確認する必要があります。

カスタマイズの制限

多くのクラウドサービスは標準的なニーズを満たすよう設計されており、サービスプロバイダが提供するプランから選択する必要が多く、細かいカスタマイズに対応できない場合があります。そのため、クラウドサービスが自社のビジネス要件に適合するかを確認することが重要です。

ベンダ依存のリスク

特定のサービスプロバイダに大きく依存すると、そのプロバイダのサービス品質や価格設定に縛られる可能性があります。また、他のクラウドサービスにリプレースする可能性も考慮し、データを移行する手段があるかの確認をしておく必要があります。

データセンターのメリット

続いては、データセンターの主なメリットを3点紹介します。

・自社要件への適合
・災害対策
・セキュリティの高さ

自社要件への適合

データセンターのメリットの1つは、ハードウェアからソフトウェアまで全てを自社で設置・設定・管理できることです。これにより、サーバ設定、ネットワーク構成、ストレージ容量などを自社のビジネス要件に合わせて最適化できます。

災害対策

多くのデータセンターは、地震などの災害の影響を最小限に抑えるための建築基準を満たしており、災害発生時でもデータ損失を防げる耐震・免震設計と冗長性を備えています。加えて、電源や空調システムなどの重要なインフラも複数の冗長性を持つことで、災害が発生してもデータセンターの運用が継続可能です。

セキュリティの高さ

データセンターは一般的に、物理的なセキュリティ(警備員、監視カメラ、入室時の認証など)と、技術的なセキュリティ(ファイアウォール、侵入検知システムなど)の両方を備えており、高いセキュリティレベルを保証しています。

データセンターの注意点

データセンターにも考慮すべき注意点がいくつかあります。主な注意点は以下3点です。

・初期投資と運用コスト
・現地訪問の必要性
・スケーラビリティの制限

初期投資と運用コスト

データセンターの利用は、サーバ・ネットワーク機器などの購入や構築、セキュリティ対策などが必要となり、クラウドサービスなどと比較すると初期費用が高くなる傾向にあります。またデータセンターへ監視やメンテナンスを依頼する費用、データセンターと自社を繋ぐ回線の費用など、ランニングコストも必要です。

現地訪問の必要性

データセンターは物理的な設備であるため、メンテナンスやトラブル対応のために現地に出向くことが必要な場合があります。遠隔地にデータセンターがある場合、現地に出向くためにかかる移動時間で、対応の遅延を招いたりする可能性があります。

スケーラビリティの制限

利用可能なリソースは、購入したサーバのスペック内に限られます。そのため、ビジネスの拡大や需要の増加に対応するためには、新たな機器の追加や設備の拡張が必要です。これには追加の費用だけでなく、機器の発注や環境の構築などに多くの時間を要します。

データセンターとクラウドサービスの比較検討事例

ここからは、実際に私がデータセンターとクラウドサービスを比較検討して、クライアントへ提案した事例を紹介します。

プロジェクトの概要

オンプレミスで構成されたクライアントの基幹システムサーバがサポート切れとなるため、システム更改の提案をしました。更改の対象は基幹システムが動作するためのアプリケーションサーバ、データベースサーバ、DNSサーバ、バックアップサーバなど、計20台程度のサーバ群です。

クライアントの第一希望はクラウドサービスを利用することでした。ただしクラウドサービスを採用する絶対的な理由がなかったことから、選択肢の中からベストなプランを採用していただくために、クラウドサービスとデータセンターを比較して提案しました。

データセンターとクラウドサービスを比較した結果

データセンターとクラウドサービスを比較した結果が以下の表です。

データセンター クラウドサービス
内容 評価 内容 評価
要件 ハードスペック 1,000名

ライセンス 700名

- ハードスペック 700名

ライセンス 700名

-
初期費用 1億1千万円 2千万円 ×
ランニング

5年費用

2億3千万円 4億3千万円
費用合計 3億4千万円 4億5千万円
拡張性 追加機器の調達に1ヶ月前後かかる 用意されたプランからの選択になり一部制限あり
運用性 データセンターに運用を委託できる サービスプロバイダに運用を委託できる
障害対応 対応を機器ベンダへ任せることが可能。ただしベンダがデータセンターへ駆けつける必要あり 障害時の復旧は迅速に可能。ただし大規模障害の場合、クラウドサービス側の復旧を待つしかない
可用性

(BCP対策)

ハードウェアの冗長化、データセンターの二重化で可用性を確保 クラウドサーバが冗長化されていて可用性を確保

 

ハードウェアの要件は「導入時点で700ユーザーが利用できること」と「将来的に1,000ユーザーまで拡張できること」の2つでした。データセンターは後からのリソース追加が難しいため、初期段階で1,000ユーザー分のスペックを準備することにしました。そのため初期費用では、データセンターがクラウドサービスよりも1億円近く費用がかかる提案となりました。

一方、ランニング費用は、クラウドサービスがデータセンターより2億円も多く費用がかかる計算になりました。ランニング費用は5年で計算しましたが、6年以上使用した場合はさらに差が開くことになります。

必ずしもクラウドサービスが、データセンターより高額になるとは限りません。ですが今回求められた規模やスペックで試算すると、クラウドサービスが1億円以上高額となりました。

データセンターを選択した理由

データセンターもクラウドサービスも運用や障害対応、可用性において大きな差はなく、双方ともクライアント要件を満たしていました。拡張性は一般的にクラウドサービスが優れますが、クラウドサービスにはプランの縛りがある点と、今回のケースではあらかじめ拡張を見越したスペックを選定したという点で、クラウドサービスの優位性がなくなる結果となりました。

そのため、比較の争点が「費用の差」に集中し、トータルの費用を削減できるデータセンターを採用しました。

またデータセンターの一般的なデメリットに、遠方の施設だと現地訪問をする際に時間がかかるという点があります。ですが今回のケースでは、同じビル内に私を含むシステムエンジニアが常駐しており、障害時にすぐに駆けつけられるというメリットがありました。セキュリティの高さやサーバの監視運用なども含め、安心して資産を預けることができる点も、クライアントがデータセンターを採用した理由の1つです。

まとめ

本記事ではデータセンターとクラウドサービスそれぞれのメリットや注意点と、実際の比較検討事例を紹介しました。
一般的には、クラウドサービスの方が費用を抑えられると言われますが、システムの規模やスペックによってはデータセンターの方がコスト削減に繋がるケースがあります。そのため、クラウドサービスがさらに普及しても、データセンターの需要は一定数あるでしょう。
データセンターとクラウドサービスそれぞれにメリットがあり、どちらも魅力的なサービスです。
ぜひ自社のビジネス要件に合わせて比較検討し、最適な選択をしていただければ幸いです。

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