運用設計とは?クラウドサービス利用での運用設計のポイントを解説 第07回 23年04月 / 最終更新:2024.06.06

近年、クラウドサービスを用いてシステムを構築する、またはSaaSを活用してシステムを構築する企業が増えています。システムを構築し、安定的にサービスを提供するためには運用設計が重要です。

クラウドサービス利用で運用設計を行う上で、考慮したほうが良いポイントは?
クラウドサービスとオンプレミスでは運用設計に違いがある?

本コラムでは、運用設計の考え方や、クラウドサービス利用における運用設計のポイントについて解説します。

運用設計とは

 運用設計とは、システム稼働後に安定したシステムの利活用をするための運用方法、日常で行うべき業務や作業手順、障害発生時の対応手順などを事前に決めておくことです。具体的には、システムの正常稼働を定期的に確認する方法、エラーを検知した場合の対応手順や関連部署への連絡方法、データのバックアップやリストア手順などです。

実際にシステムを稼働させると、多くの場合は障害やトラブルなどが発生します。また、セキュリティパッチなどのパッチ適用をはじめとした、定期的な修正や変更などのメンテナンスも必要になります。このため、事前に運用設計を行うことで運用担当者が開発者の意図を理解し、スムーズなシステム運用が可能となります。

特に近年は、システム障害がひとたび起こるとビジネスに大きな影響を及ぼすことが多いため、ビジネスへの影響を最小限に食い止めるためにも、運用設計の重要性が高まっています。

運用設計のポイントを解説

運用要件と3つの運用設計

運用設計を行うためには、運用要件を明確にすることが大切です。ここでは、運用要件と運用要件の実現に向けた3つの運用設計について解説します。

運用要件

システムは構築して終わるものではありません。システム稼働後にシステムを構築した目的を達成することが重要です。運用要件とは、システムの安定稼働に必要な運用フェーズの要件をまとめたものとなります。

では、システムの安定稼働に必要な要件とはどのようなものでしょうか?それを検討するにあたり役立つのが、IPAが提示している『非機能要求グレード』です。非機能要求グレードはシステムの安定稼働に必要な非機能要求項目を、以下の6つの観点からリストアップし、それぞれの要求レベルを段階的にまとめたものです。
参考:IPA 独立行政法人情報処理推進機構 「システム構築の上流工程強化(非機能要求グレード)」

・可用性
・性能/拡張性
・運用/保守性
・移行性
・セキュリティ
・システム環境/エコロジー

運用要件を検討するにあたっては、非機能要求グレードに記載されている上記6つのカテゴリーのうち、「可用性」「運用/保守性」「システム環境/エコロジー」の運用に関する項目が役立ちます。

3つの運用設計

運用設計には大きく「業務運用設計」「基盤運用設計」「運用管理設計」の3つに分けることができます。それぞれの概要を見ていきましょう。

業務運用設計

ユーザーが適切に業務を行えるよう、運用面の設計を行います。具体的には以下のものが該当します。

・運用スケジュール:システム運用時間、日次・週次・月次の各種バッチ起動時間など
・メンテナンス:ユーザー管理、データメンテナンス、リリース作業など
・インシデント管理:システムでトラブルが発生したときの対応方法や管理方法など
・ヘルプデスク:ユーザーからのシステム利用に関する問い合わせ対応方法など

基盤運用設計

システム基盤に関する運用面の検討を行います。具体的には以下のものが該当します。

・ジョブ管理:ジョブ起動の自動化やスケジュール設定など
・バックアップ/リストア:バックアップとリストアの方針など
・ログ管理:ログの採取方法や対象など
・監視:監視対象、検知方法、エスカレーションルールや方法など

運用管理設計

関連システムとの連携を含め、システム運用ルールや基準に関する検討を行います。具体的には以下のものが該当します。

・運用ルールの策定:管理者作業や利用者からの問い合わせに関する業務フロー策定など
・運用手順書や管理資料の作成:障害対応手順書やリリース作業手順書など

クラウドサービスの運用における共同責任モデル

クラウドサービスの場合、サービス提供者はサービス提供者の責任範囲と利用者の責任範囲を明確にした「責任共有モデル」が採用されることが多いようです。

ここではクラウドサービス運用における共同責任モデルについて解説します。

責任共有モデルとは?

オンプレミスの場合、サーバ・ストレージ・ネットワークなどのハードウェアから、ミドルウェア、データ、アプリケーションまでユーザーが保有して管理・運用することが一般的です。この場合、管理上の責任はユーザーが負うことになります。

クラウドサービス利用の場合、サーバ、ストレージ、ネットワークなどのITインフラはクラウドサービス事業者が管理するのが一般的で、管理上の責任はクラウドサービス事業者が負うことになります。一方、アクセス権限などの各種設定やデータなどについてはユーザーが責任を負うことが一般的です。

このように、「責任共有モデル」とは、クラウドサービスに関する責任範囲をサービス提供者とユーザーで明確にし、分担する考え方です。

クラウド運用における責任共有モデルに基づく責任範囲

パブリッククラウドサービスの主な利用形態は、「IaaS」「PaaS」「SaaS」があります。これらはサービスの範囲が異なるため、責任共有モデルにおけるサービス提供者とユーザーの責任分界点が異なります。「IaaS」「PaaS」「SaaS」の一般的な責任分界点は以下の通りです。

クラウドサービス利用における運用設計のポイント

ここまで、運用要件、運用設計で決めるべきこと、クラウドサービスにおける共同責任モデルについて解説しました。ここではクラウドサービス利用における運用設計のポイントについて解説します。オンプレミスとの運用設計の違いを押さえていきましょう。

クラウドサービス利用の運用設計で考慮すべきポイント

クラウドサービス利用の運用設計も、基本的にはオンプレミスの場合と大きな差異はなく、ほぼ同等に検討する必要があります。ただし、オンプレミスの場合はITインフラ、データ、アプリケーションの全てをユーザー側が責任を持って運用する必要がありますが、クラウドサービス利用では共同責任モデルで責任範囲の一部がサービス提供者に移譲されています。このため、クラウドサービス利用の運用設計を行う場合には共同責任モデルを考慮する必要があります。

また、「IaaS」「PaaS」「SaaS」などのクラウドサービスの形態によって責任範囲が異なります。クラウドサービス事業者の責任範囲は事業者によって異なるため、事業者に責任範囲を確認した上での運用設計が必要です。

マネージドサービス利用の検討

クラウド利用の運用設計を行う上でポイントとなるのが、クラウドサービス事業者などが提供する「マネージドサービス」の利用です。
例えば、監視・運用のための人員を割くことができないといった悩みがあるユーザーの場合、「マネージドサービス」の利用が効果的です。

マネージドサービスとは、監視・運用業務の一部をアウトソーシングできるサービスです。システム運用には専門知識をもった人材が必要であり、そのような人材を揃えるのは容易ではありません。しかし、マネージドサービスを利用することでユーザーは負担を最小限に抑えながらシステム運用することができます。

なお、弊社にもS-Portサービス利用のお客様向けに「監視・マネージドサービス」を提供しています。

まとめ

本コラムでは運用設計の考え方やクラウドサービス利用における運用設計のポイントについて解説しました。

運用設計とは、システム稼働後に安定して運用することができるよう、運用方法や障害が発生した時の対応手順などを事前に決めておくことです。また、運用設計には大きく分けて業務運用設計、基盤運用設計、運用管理設計の3つがあります。

クラウド利用における運用設計のポイントは共同責任モデルを考慮しながら行う必要があります。また、クラウドサービス事業者が提供するマネージドサービス(管理・運用サービス)をうまく活用することがポイントです。